スーツ姿で日雇いバイト
最近更新が滞ってしまってすみません…
身の回りが忙しくなってしまったためですが、コメントなどして下さった方々には順々にお返事させて頂きますので少しお待ちください。
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スーツ姿で日雇いバイト
私は「就活してるような偽装工作はどうすれば可能か」に考えを巡らせていました。
私なりの答えは「スーツ姿でできる日雇いバイトを探す」でした。
住宅展示場の受付や、モデルルームの看板持ち、企業系イベント会場のスタッフなど。
これなら、スーツ姿で「行ってきます」と言えば、企業説明会に行ってるように偽装することができます。
難点は、帰りにパチスロができないこと。
パチスロに行くと、スーツが煙草臭くなるからです。普段着と違って、簡単に洗濯できるものではありません。
当時は「ファブリーズ」みたいなものがありませんでした。なので一回臭いがついたら丸1日、日干しするか、室内であれば相当日数置いておかないと臭いが取れませんでした。
(出入口付近に消臭機があるパチンコ屋もありましたが、あれはあれで消臭剤の匂いが付いてしまってダメでしたね…)
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「行ってきます」
「説明会?」
「うーん、まあ」
「どこまでいくの?」
「東京駅近く」
「そう、行ってらっしゃい」
私は「説明会に行ってきます」とは言ってません。相手の問いに対して、そうとも、そうでないともとれる、曖昧な返答をしだだけです。
さらに返答には「就活なんて結果がどうなるかわからないし、自信満々に行ってきますなんて言えないよ、そういうことはわざわざ聞いてくるなよ」的な態度も含ませつつ…
母親は満足そうな笑みを浮かべて私を見送りました。
私は私で、説明会に行くと嘘をついたわけではないので、罪悪を感じずに済みます。
さきほどの私の返事で、私が説明会に行くと捉えたのなら、それは母親の好意的解釈に過ぎず、単なる「勘違い」です。
数時間後。
「…はい、君はここに立っててね」
マンションギャラリー常駐の営業の方から、私含めてスーツを着たバイト3人が指示を受けます。
「はい。私は交差点の公園寄りのほうでいいんですか?」
「そう、そこ。うん。あ、何かあったときはここに連絡して。トイレとかもね。事前に言ったように、とにかく勝手にいなくなったらダメだからね」
「わかりました。行ってきます」
「あ、ちょっと待って。あのさ、一点注意しておくけど、最近はいった人で、看板持ってる間、ウォークマンつけてたり携帯いじってたりする人がいたけど、そういうことしたらすぐに帰ってもらうから」
「わかりました」(チッ…ダメか)
「こっちは見回りもするからね」
「……」
いままで以上に「使い捨てにされてる」「信用されてない」感がよくわかる仕事でした。いままでと違って作業をするわけではなく、ほとんどずっと立っているだけでした。
見回りをする、と言われると、こちらとしては隠れてラジオや音楽を聴くこともできません。(といっても、慣れてくると、看板を持つ手の袖からイヤホンを通して聴いたりしてましたが)
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他にも、スーツを着て、交通量調査、ポスティングなどもやりました。この偽装はなかなか使える、と私は思いました。
帰宅後。
「おかえりなさい。ご飯作っておいたよ」
「ただいま。ああ、ありがと」
「どうだったの?」
「うーん、合同説明会で、財閥系とか見てきたんだけどね。まあ今年は結構厳しいっていわれてるじゃん? 他もいろいろ見てみたいなぁとは思うけど」
「そうかぁ。まあ、いろいろ見てみるといいと思うよ」
「そうだね」
母親には「それっぽい」「無難」な、でまかせを並べました。ネットで仕入れた「就活」の知識をフル活用して。もう、この程度なら、事前に考えなくてもポンポン嘘が出てきます。
「こんな茶番なんてさっさと切り上げて、明日のバイトを探さなきゃな。今日スーツを着たから、明日は普通のバイトでいいか…金がいいから事務所引越し作業とか夜勤関係はないかなぁ…」
しかし母親との会話を上手く切り抜けてスッキリしても、夜、一人になると、カネをはじめとしたあらゆる不安が頭を支配します。
「夏休みが終わったら、パチスロやめよう」夏休みが始まる前に、そう誓ったことを思い出します。
…どうやら無理そうです。
自分の「将来のため」にやるべき就活をしてるどころではありません。いまある借金を返さなければ、先に進めないと思うわけです。
パチスロする、金がなくなる、バイトする、学校いけない、自暴自棄になる、パチスロする…。この無限スパイラルを断つには、当然パチスロをやめるしかないのですが、それができない…。
また、繰り返しになりますが、自分が大学入学時に夢見たキャンパスライフと現実とのギャップに愕然とし、好きだった彼女と別れてしまったことを思い出し、仲の良かった友達との関係を絶ってしまったことを後悔し、布団の中で本当に両手で頭を抱えていたこともありました。
私は悪人なのでしょうか?
両親はとても優しく、悪いことは悪いと信念を持って育ててくれました。何故、このようなクズになってしまったのでしょう。
「誰か助けてください」「明日になったら、大学入学前の自分にタイムスリップしてますように」「今日パチスロで負けたことが夢でありますように」「誰か助けてください」「誰か気付いてください…」
でも、うずくまり、恐怖や情けなさに震えながらそう思っても、そう祈っても、やはり私は泣くことはありませんでした。
本心ではそう思ってなかったのです。
「親が助けてくれる。俺は本当はカネには困らないんだ。また親が助けてくれるよ…」頭の片隅で、そう笑っている自分がいました。