ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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家族全員をダマす、ということの罪。

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家族全員をダマす、ということの罪。

 

父親が帰ってきました。


母は起きてきて「おかえりなさい」と言いましたが、いつものようにすぐまた寝室に戻っていきました。


「おお、起きてたのか」


「うん、ちょっとね」


父は私をチラと見てそう言います。私は私宛に届いた無料の就活情報誌を机のうえで見ているフリをしていました。


父は腕時計を小物入れに置き、ワイシャツを洗濯カゴに放り、冷蔵庫からウーロン茶を取り出しコップに注ぎ、椅子に腰掛けました。


狙うならいまです。


スーツを脱いでから風呂にはいるまでの間。スポーツニュース番組のなかでも「プロ野球」を見ているときのわずか五~十分。


**

すぐそばにいるのに、なかなか口が開きませんでした。


はじめて借金したときよりも緊張しました。


本当に、最初の一声でも出すことができれば続きそうなのですが、1秒が何時間も長く感じられ、かといって何もしなければ機会が逃げていきます。


「父さん、ちょっといい、お願いがあるんだけど…」


結局、言葉を発することができたのは、プロ野球ニュースの終わり際でした。


「お、なんだ?」


「あのさ、し、しゅ、就活でさ、結構金かかってて、ちょっとお金がなくて…」


頭が真っ白になり、考えていたことがまったく言えません。


「おお、そうなのか」


「お金、ち、ちょっとだけ欲しいんだけど…」


父親は私の「金が欲しい」というメッセージを察してくれたのか、いいよ、と、あっさり1万円を渡してくれました。


「ありがと」


金に意識が向かわないよう、私は手汗を拭き、一万円札を素早くポケットに忍ばせます。


「就活はどうだ?」


長財布を閉じながら父は聞いてきました。


「うーん、結構厳しいかも。まだいろいろな業界を見てる段階だけどね」


「いまうちの会社でも説明会をやってて、学生がきはじめてるよ」


「へぇ、そうなんだ」


「興味ある業界とかあるのか?」


「あ、えっと…旅行会社とかかな」


「おお、旅行会社か! 営業職とかだと結構キツいっていうよな…ま、頑張れ!」


何故「旅行会社」というワードが自分の口から出てきたのかさっぱりわかりません。しかし、予想外に簡単に一万円をゲットすることができた私は高揚に満ちていました。


余裕ができ、口封じも忘れません。


「あ、ごめん、あのさ、母さんに小遣い貰ってるじゃん? でもさ、ちょっとそれだけだとどうしても足りなくて…」


「ああ、いいよ、これは俺からだ」


父は、はじめて私の大学生活を聞いてきたときのように、口元を緩ませてそう答えました。


「いくら必要なんだ」「なんで足りないんだ」「きちんとお金を管理できないからだ」昔のように、クドクドと追求されると思っていました。


私は確信しました。


父親は「息子から頼られる」という状況が嬉しかったのだ、と。そして「息子が(金銭的なことであれ)自分に悩みを打ち明けてくれた」という状況も。


やけに会話が多かったのも、その現れなのではないか、と。「人間は年をとると丸くなる」というのは本当なんでしょうか。


これは意外と…今後もイケるかも知れない、そう思いました。

 

**

しかし深夜、自室に戻り、1万円をポケットから出したとき、思いました。


「これで全員、裏切ってしまった」と。


私は身近な人達、私を育ててくれたり、苦楽を共にした人達すべてを裏切り、嘘をついたことになります。


自分が親だったら、こんな息子、問答無用で勘当します。拳で殴ります。


でも、いくら後悔しても、もう時間は戻りません。


…今更思います。


さすがに依存性であることは打ち明けられなくても、パチスロをやってること自体を話すことは、それほどハードルが高いことだったのでしょうか?


「俺、パチスロ、やってんだよね」


この一言が自分にとって、周りに対して、どんな意味を持つというのでしょう。「そうなの? 俺もたまにやるけどね」「へぇー、パチスロやってたんだ、意外だね」「マジで?じゃあ今度一緒に行こうよ」「ほどほどにしなさいよ」


自分でもわかります。別に、きっと、たいしたことではないのです。こんなこと、日常会話の一コマに過ぎない。


でも、もう「俺、パチスロ、やってんだよね」と話す段階も、機会も、人も、みんな逸してしまったのです。


**

そして、翌日を迎えます…