ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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借金滞納へのカウントダウン。

 

翌朝、酷い首筋のコリがあったものの、心身ともに極めて良好でした。


父親に嘘をついた罪悪感は多少残ってますが、ここで停滞しているわけにはいかず、次のミッションへと頭を切り替えます。


負荷はそれほどでもありません。いつものようにやればいいわけです。


朝、洗濯物を終えた母は、パート勤務先への身支度をしていました。忙しさのなかのどさくさに紛れて…


「ごめん母さん、ちょっとお願いがあって」


切り出しは順調。あくまでカジュアルな口調と、余裕のある表情で話します。


「実は革靴をもう一足買おうと思ってて、今月の小遣いは電車代とか昼代に取っておきたいし、できればあと2万円欲しいんだよね」


母は忙しそうに化粧をしてましたが、手を止めて耳を傾けてくれました。


「2万円?」


「え?」


「結構するの買うのね」


「…いや、いいのを買いたくてさ、ほら、役員面接とかあるじゃん? そういうときに備えて…」


「ああ、いいよ、いいけど、そんないいのを履いたら、逆に生意気って思われたりしないの?」


「あー、そうか、そうかもね、あまり高いやつは確かにね、でもほら、あとワイシャツとかも買いたいから」


「はいはい、」


『2万円は、額として中途半端で不自然だったか。いっそ「3万円」要求したほうがよかったか…』


母が財布をあさっているときの私の気持ちは、パチスロの「あとちょっとでボーナスを引ける」感覚に似ていました。早く、早く、早く…。早くカネが欲しい……


ちょっと長く財布をあさったあと、母はバツの悪そうな顔で私を振り返ります。


「あ、ごめん、いま財布に1万円しかないや。はい、とりあえず、一万円ね!」


「……え」


「そういえば、ワイシャツならさ、土日に百貨店でセールあるらしいから、そこで買うのはどう?」

 


「…あ、そうなんだ、ありがと!」


私は満面の笑みでそう答えました。

 


『……』

 


『ハアアアアアアアア!?ちょっと待ってくれよ、勘弁してくれよ、俺の状況わかってんの、ヤバいんだって、仕事終わったあとおろしてきてくれるんだよね!?頼むよ、頼むよ、お願いだから頼むよ…』

 

心臓がドクドク波打ってます。不安で顔が曇りそうになりますが、それでも私はありったけの笑みを浮かべました。


「じゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい…ぁ…」


消え入るような声が出ましたが、言えません。「もう一万円、必ず今日中に欲しいんだけど」とは言えません。靴代を今日欲しい必然性がまったくありません。


どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……


また「隣駅のパチンコ屋に行って増やそうか」と考えましたが、さすがに実行する気が起きませんでした。


ベッドに潜り、寝ました。


いままで、私は窮地に陥っても少なくとも何らかの解決策を考える人間でしたが、この日、嫌なことから逃避するために「寝る」ことを覚えました。


もう、何も考えたくありませんでした。


「明日になりませんように、明日になりませんように…起きたら一週間前に戻ってますように…」


結局、親がその日のうちに一万円をくれるという奇跡も起きませんでした。