偏差値という相対的なものさし。
偏差値という相対的なものさし。
「久し振り!」
「おー、元気してた?」
6ヶ月振りに親友の佐伯(仮)と会いました。
この時期、私はほとんどの交友関係を絶っていましたが、彼とは高校時代からの仲で、不定期にもなんとか会っていました。
「やべー、今月のピッチ代二万円超えた!!」
ケータイの前身であるPHSが出始めたころ、彼とは毎日のように1日30回くらいショートメール(いまのCメールのようなもの)をしたり、たまに電話をすればバカ話が止まらず、2時間くらいぶっ続けで通話をして、次の日学校で会えばまた延々と喋り続けられるような関係でした。
「……就活のことで悩んでいてさ、たまには飲まない?」
佐伯はメールで私にそう聞いてきました。
「お、いいよ。うまくいってないの?」
「うーん、なんかね」
「そっか……場所どこにしようか」
「あ、連続メールでごめん、ちょっといまお金がないからさー、隣駅のあの居酒屋にしない?」
(私はうっかり、安い場所を指定するのを忘れていました)
「了解、じゃあ20時で!」
**
半年前、大学の帰りに、地元のマクドナルドで佐伯と話したとき、佐伯が「就活はなかなか厳しそう」と言ったことを思い出しました。
「俺の大学のレベルだとさあ……あくまで噂だけど、大手の説明会に参加できなかったりすることもあるらしいよ?」
高校時代と変わらず、佐伯はLサイズのポテトをつまみながら話しました。
「うそだあ、そんなの都市伝説っしょ」
「まあ噂だっていうからね…ああでも、そうでなくても俺はあまりこれといって取り柄ないし、就活怖くなってきた…」
「ハハ、ビビりすぎだって!佐伯なら絶対うまくやれるよ」
「いやー、どうかなぁ……」
就活、上手くいってないんだ。就職先、見つからないのかな。私はそう思いました。
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ところで、
私は「偏差値」が好きです。
単に学力を測るものさしとしての偏差値ではなく、ある集団において相対的な優劣を決めるという、その概念がとても好きなのです。
趣味。特技。面白さ。感性。ファッション。コミュニケーション能力。専門知識。年収。学歴。容姿。身体能力。
偏差値45の人間でも、偏差値30の人間の集団にいればきっとヒーローになれるでしょう。
逆に、偏差値60の人間でも、偏差値70の集団にはいれば、落ちこぼれになることだってあります。
……誰に教わったわけでもなく、私はいつのころからか、そういうふうに人や集団を見る傾向がありました。
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私と佐伯は、対等に笑い、対等に喜び、対等に悲しみながらも、その裏には常に上下関係があったように思います。
「森田、さすがだなぁ」
「森田はやっぱりすごいね」
「森田、本当うらやましい!」
勉強も運動も得意でなく、そういう自分にコンプレックスを抱いていた佐伯にとって、それらすべてが彼より「相対的に」優っていた私は、常に尊敬の念を持たれていました。