ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

内定を取った友人の話。

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内定を取った友人の話。

「それで、どうしたの?」


生ビールを一杯飲み終わったころに、私は切り出しました。


「んー、いやー、なんかさあ、微妙というか……内定は取れたには取れたんだけど、不動産会社とOA機器関係でさぁ」


軟骨のからあげを口の奥に放りながら、佐伯は言いました。


「お、おお、内定取れたんだね、いいじゃんいいじゃん(え…内定取れたんだ…)」

ビールジョッキには泡が垂れ、泡はとけたソフトクリームのようにだらしなくグラスにまとわりついています。


「◯◯と◯◯ってとこでさ、森田は聞いたことある?」


「ああ、知ってるよ」


突然の内定報告に腹が立ちましたが、よく考えたら佐伯からの連絡に返信や折り返しをしていなかったのは私でした。私は「知ってるよ」と笑顔で答えました。


「本当? でもさー、不動産会社ってめちゃくちゃ大変って言わない? 一応OB訪問はしたんだけど、その人は、キツいけどやりがいは間違いなくあるって言うんだよね。でもあそこだよ? 業界でもきついって有名な」

「どんだけキツいんだろうね」

「毎日、帰りが22時だって」

「へぇ、そんなに」


私は目を開いてこたえました。
肩幅の広い金髪の女性店員が、せわしなく注文を読み上げています。店内に貼られたメニュー表は一部が破れたり剥がれたりしていました。


「かたや、OA機器のほうも、これ、掲示板でブラックって書いてあったんだよ」

「そんなふうに? 聞いたことある名前だけど、意外とそんなんなんかね」

「いや、ノルマ至上主義でパワハラが酷いって」

「そんな? でも売れてて勢いのある会社ってそんなもんなんじゃないの?」


いまの返しは、我ながら、「それっぽい」と思いました。隣の席の眼鏡をかけたサラリーマンが、おい姉さん、ちょっと、おい、呼んでんだけど、と繰り返し叫んでいます。


「いやー、確かに成長はしてるかもしれないけど……なんかどっち選んでも鬱だ」

「そうなのかなぁ」

「なんかサークルの先輩も言ってたけど、文系ってほとんど営業しか選択肢がなくない?」

「それは言えるねぇ」

「俺、体力ないからデスクワークがいいんだけどなぁ、でもSEなんかも地獄だっていうし…」


別の店員がサラリーマンのもとに駆けつけ、ペコペコしながら注文を聞いています。佐伯は右手で割り箸をあそばせ、醤油皿に盛られたワサビの山は崩れて粒になりました。


「マジ、どっちがいいんだろうね」

「うーん……どうなんだろうね」


私は、「どっちを選んでもいいんじゃないの」とは言いませんでした。「2社から内定取れたことじたい、凄いことじゃん」とも言いませんでした。
佐伯は私からそういう言葉が出ることを望んでいると思いましたが、悔しいし、うっとおしいので何も答えませんでした。


「日本酒を」と佐伯が追加します。肩幅の広い女性店員は両手にグラスを抱えながら雑にこたえました。


「日本酒? 珍しいね」

「ああ、サークルの先輩に勧められてるうちに俺も好きになっちゃって」

「俺にはどこが旨いのかまだわからないなぁ」

「いや、それがさ、そうだと思うじゃん? 銘柄によるんだよね、俺もはじめてそれを知ったんだよ、いろいろ教えてもらったんだけどさ、たとえば……」


サークル。先輩。新しいこと。内定。大学。就職。サークル。先輩。新しいこと。
話しているうちに、だんだんパチスロをしたくなってきました。佐伯が目を逸らした一瞬のスキを狙って、私は時計を見ます。まだ21時なので、閉店には間に合うかもしれません。


「森田はどうなの? 就活。」


突然、佐伯がそう聞いてきました。

 

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