ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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バイト仲間の境遇。

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バイト仲間の境遇。

私は今月の支払いに備えて、また日雇いバイトに精を出していました。


何回も現場で同じだったひとがいます。


そのひとは、吉川さん(仮)と言いました。


きれいな二重の目はギョロリと特徴的で、真っ黒な髪はいまどき珍しいスポーツ刈り。

服装はいかにも安っぽく、量販店で売っていそうなスウェットと無地の目立たないトレーナーを好んで着ていました。


年齢を知ったのはあとのことですが、30代半ばというにはひどく若く見えました。

 


「退屈っすね、この現場。」


普段は「いかに目立たなくできるか」に知恵を絞っていた私が、なんとなく声を掛けてしまったのは、恐らく無意識のうちに吉川さんに同朋意識を感じたからなのだと思います。


「ね。でもさ、俺は、ほら」


口角をあげてはにかんだ吉川さんがスーツの左袖から出したのはイヤホンでした。スーツの内ポケットに音楽プレイヤーを忍ばせ、袖からケーブルを伸ばす。私も仕事の退屈さを紛らわせるためによくやる手段でした。


「はは、何聴いてるんですか?」


意外とユーモアがあるひとなのかも。
袖からカタツムリの角のように垂れ下がる2つの黒い突起を見、私は両手を耳に充てイヤホンの形をつくりながら尋ねました。


「ラジオ。FMかな。」


「へぇ、何かお気に入りの音楽とか放送とか、あるんですか?」


ラジオ。FMかな。独り言のように呟く吉川さんは無表情でしたが、どことなく哀愁というか、悲壮感のようなものが漂っていました。


「いや、そんなこだわりはないかな…適当に、そのときやってる面白そうな番組を見つけて聴いてるというか」


「へぇ、たとえば今日みたいな日曜とかだと、なんかお勧めはあるんですか?」


「うーん、ない」


ない。失笑を浮かべたのは、自身のこだわりのなさを隠すような、俺にそんなことを聞きてくれるなというような意図が見えました。


「吉川さん、ですよね。何度か現場、一緒になってますよね」


「そうだね、」


「すいません、森田と言います。」


「結構長いの?」


「いえ、半年くらいですかね。吉川さんは?」


「2年くらいかな。まあ、はいったり入らなかったりだけど。学生?」


「はい。……ま、まあ、なんというか、バイトばっかりしてますけど」


私も負けじと失笑しながら答えます。

ストレートに自身の現状を言ったのは、吉川さんが初めてかもしれません。


一期一会の関係。

もちろんそういう関係であることも私がそれを吐露した理由かもしれません。でも吉川さんはやはりどこか、夢や希望のすべてを諦めたような「気怠さ」のようなものがありました。


それは仁王像のようにおおきく見開いた両目からではわからなく、言葉をひとつひとつ発することすら面倒臭さを感じているような、言葉を発したあとにどこか虚空を見ているような、地に足がついていないような、観察すればするほどそれらはひしひしと伝わってきました。


「学生か。いいねぇ」


「吉川さんもそんなときが?」


私は年齢不詳な吉川さんを見ながら聞きました。髭がまったくはえていなく、日焼けしていない肌が、その不詳さをいっそう際立てました。


「うーん、だいぶ前だけどね。まあ、中退したけど」


「あ、はは。」


どう答えていいのかわからず、何故か表情も声色も変えず、笑って答えてしまいました。


「…中退? …どうして中退したんだろう?」


相変わらず焦点が別のところにある吉川さんを見ながら私は思いました。