自宅へのコール。
自宅へのコール。
勝った瞬間がないわけではないんです。
最期の勝負。一時的に、手持ちの一万五千円が、二万三千円くらいになったときがありました。でも、そこでやめようとは思いません。こんな重要局面でさえ。
二万三千円までいけたのなら、せめて元本割れしない八千円だけ勝負すればいいのに、結局はゼロになるまで打ち続けます。
まるで、ゼロになって、自分がどうなってしまうかを楽しんでいるかのように。
人間誰しも、自己破壊本能みたいなものが備わっているんでしょうか? それとも、私のような重度ギャンブル依存者特有の症状なのでしょうか。
あるいは、これは破壊ではなく、行きつくところまでいって、どうしようもなくなって、誰かに気付いて欲しいとする気持ちがそうさせるのでしょうか……
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21歳。大学4年。
9月**日。
自分で用意できたカネは3万円でした。
親から小遣いを貰いました。
3万円でした。
あわせて6万円。
3万円足りません。
親から小遣いを増額してもらうことはやめました。格好つけたかったのか、情けなさからなのか、恐怖からなのか。理由はよくわかりません。
優先順位が明らかに間違っています。「カネを借りたら返さなければならない。」そんな子供でもわかることも、判断がつかなくなっていました。
私が思い描いていたプランはこうでした。
いつもの「テクニック」を使って限界まで振込み日を引き延ばし、その間にバイトをして、残りの3万円を稼ぐ。
こんな状況なのに、こんな緊張感のない、ありきたりな手段しか思いつきませんでした。考えることがとにかく苦痛で、1日1日、とにかく考えることから逃げていました。
「森田様。入金が確認できませんが」
「あれ、すいません、さっき振り込んだんですけどねぇ。確認できませんか?」
「かしこまりました。それでは、改めて確認させていただきます」
「森田様。入金が確認できないのですが」
「えっと、あれ、すいません、昨日振り込んだって言いましたけど、私の勘違いでした。いまちょっと諸用ですが、終わったらすぐ振込みますので」
その日のバイトの帰り、母親から「金沢さんという方からお電話あったわよ。知り合い? またかけ直すって」と告げられました。
『クソッ! しまった、電話線抜き忘れた……でも以前より確認の時期が早い気がする。これって俺が信用されてないってことか、腹が立つな』
(誰がどうみてもこんな奴を信用しないだろう)
「うーん、なんだろ、全然知らない苗字だなぁ。この前新宿で変なアンケートに答えちゃったから、まさかその関係かな? どうしてもっていうから答えたんだけど。無視していいよ、怖いね」
ここは陰を見せず、明るく答えました。
「そんなん、無視しなきゃダメよ。相変わらずひとがいいんだから」母親は苦笑いしていました。
翌日ー