ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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止まらない空虚感。

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gambling-addiction.hatenablog.com





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止まらない空虚感。


「ええ……いきなりそんなこと言われても……まったく準備してないし」


「ごめん」


母親は財布のなかをくまなく探し、お札を一枚一枚数えていました。足りないと言われたらどうしようとは何故か考えもしませんでした。


「ああ、あったわ。はい。……じゃあこんど、ちゃんと話してね」


「ありがとう。……ありがとうね。」

 


**

母親は仕事に出掛けていきました。


「この前あげたばかりでしょ」と言ったときの母親の顔。得体の知れない不安を隠しきれず、恐らく本人は自覚はないでしょうが、いままでに見たこともないくらい険しい表情になっていました。


カネをせびる私の顔色と動作の変化を見逃さないよう、細かく見ていました。母親はなにか気付いているのかも知れない。確信ではないけど、朧げに。私の身に起こっている変化を。息子が「悪者に脅された」「悪徳商法に引っ掛かった」「へんな女に騙された」いろいろと想像しているのかも知れません。

しかし私はそんな母親に勘付き、毅然とした態度でカネを要求したのです。


私は、忘れものなどをして、母親が再び帰ってくることのないよう、おとなしく自室で10分ほど待ちました。


登校する小学生は途絶え、静寂が戻りました。


時間が経つにつれ、私の目の周りの筋肉が弛んできます。私はこみあがる衝動を抑えきれませんでした。


はは……ははは!騙されやがった!母親なのに、しっかり騙されてやんの!やった!これで借金がぜんぶ返済できる、働かなくてもすべて返せるんだ!しかし人を騙すなんてなんて楽勝なんだろう、俺がここ数ヶ月悲痛な表情をして、鬱っぽく演じていたことも功を奏したのかも知れないな、いや、俺の演技力もなかなかのものだ、ここ一週間で臆病になってたのがまるで馬鹿みたいだ!


福沢諭吉のすかしを陽光であぶりだし、改めて大好きなお金のありがたさを噛み締めました。

パチスロももう、やめられる気がしていました。これでよなよな親の財布から小銭を盗むような惨めなことはしなくていい。昼飯に100円の菓子パン1つをむさぼるようなこともしなくていい。


私は自転車を漕ぎ、急いでATMに駆けつけました。私の目の前をゆっくり歩いているおばあさんを、温かく見守る余裕もありました。

金額と振込口座が記されたメモ帳を片手に、慎重にタッチパネルを押します。


フリコミ/◯◯◯◯
93,562円


明細が出てきました。
紛れもなく、完済。


ざまあみろ、全額返してやったぞ!俺に屈辱を与えた奴らはきっと、俺が今日借金を返済できないと思ってるだろう!ちゃんと貸したカネを返してくれる優良な客を、利用停止にしてしまったことを後悔するがいい!いや、俺に屈辱を与えたあの男も、すいませんお金借りてくださいと、そのうち泣きついてきたりして……


そうニヤつきながら、なら試しにと、クレジットカードをATMに入れてみました。


「このカードはご利用になれません」

 

「……。」

 

**

カードは言われたとおり、真っ二つに折り、ゴミ箱に捨てました。もう借金はしない。しないというよりは、できない……。


考えていたシナリオどおりにことは進みました。正直、バレると思っていました。考えていたシナリオのなかでいちばんポジティブな形でカネを調達することができた。


私は再び自転車にまたがり、自宅の方向に走らせました。


太陽が鋭角に照りつけ、昨日濡れていたアスファルトはすっかり乾いていました。私の勝利を讃えるかのように、空には雲ひとつなく……


私は自室に戻り、駅前で取ってきたフリーの求人誌を開いていました。『次はなんのバイトをしようかな♪』。大学を留年することもほぼ確定したようなものなので、もう1年のモラトリアムでやりたいことを妄想していました。『海外旅行にいきたいな』『冬にはスノボとかもやりたいな』『ストリートダンスなんかも昔からやってみたかった』『ギターも買い戻して、また練習しよう』。


でも、そう思うと、すぐに、『誰と?』という疑問が湧いてきました。


誰と旅行して、誰とスノボに行くのだろう。ギターを練習して、上手くなって、誰に見せるのだろう?


「あれ、もしかして俺、これからひとりで人生を過ごすの?」


晴れ渡る視界は、一瞬で曇りました。


「あれ、しかも結局、親も、友達も、誰も俺の借金もパチスロのことも知らないままじゃん……」


すべては自分が望んだ結果であるにも関わらず、言いようのない虚しさが押し寄せてきました。


誰かが気づいてくれる。誰かが助けてくれる。誰かが声をかけてくれる。最悪のところにいきつくまでにはきっと誰かが……。

いままで心の奥でそう思い続けていましたが、結局その日は来ませんでした。


小さいころに見たアニメや戦隊ものは、必ず悪が正義によって倒されていました。

悪者の悪事はすべて明るみになり、正義のヒーローからそれ相応の罰を受けていました。


私のしてきた行為は悪でしかないのに、裁きにくるヒーローは現れません。いつか、誰かが気付くのでしょうか。


そのとき、嘘や行為は雪だるま式に増幅していないでしょうか。弾けたときの影響は果たして些細なもので済むのでしょうか。


虚しい。


その虚しさを晴らすために、私は前日に稼いだ金を握り、またパチンコ屋へと向かっていました。