ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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元彼女との電話。

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元彼女との電話。

 

「ごめん、聞こえる?」


彼女は、あまり声の聞こえない場所に移動しているようでした。私は彼女の声をもっと聴きたくて、感情が高鳴りました。


「いや、なんか、なんとなく、なにしてるのかなって」


「なにしてるって、そっちこそ、いまなにしてるの?」


お互い、少しドキドキしているのが伝わりました。彼女の声は、口調は、なにひとつかわっていなくて、私の涙腺は少し緩みました。

 


「いや、俺、実はまだ学生やってて。一年、留年中」


「そうなの?」


「うん、まあ、ちょっと。」


「そっか」


「いや……あ、あのさ、奈津美はいまなにしてるの? なったの? 介護士に」


「いや、実はまだ私も学生やってるんだ」


「学生?」


「うん、大学院に進学したの」


「へぇ、そうなんだ」


「うん」


「凄いな。なんの専攻?」


「教育だよ。生涯教育関係というか。ちょっと、興味が出てきちゃってさ。もう2年間、勉強したいなって思って」


「へぇ、」


「……」


「……」


「あの、ほら、いま、バイトとかしてるの? 昔、駅前のカフェでやってたじゃん、まだ続けてたりするの?」


「いや、いまはアパレルというか、服屋の店員のバイトをしてるよ」


「あそこの駅の?」


「いや、駅は変えたんだ。いま地元だとなかなかバイトないからさ。……そっちは?」


「あ、ああ、俺は、居酒屋のバイト辞めて、いまは広告代理店でバイトしてるよ。勉強があるからほとんどやれてないけど」


「へぇ、おしゃれだねぇ」


「業界だけね。仕事は地味だけど」


「ふふ、そうは思えないけどな。……資格、なにを目指してるの?」


「国家一種。多分、というか、絶対、無理だと思うけど」


「へぇ、凄いねぇ。そっかそっか。でもきっとやれると思うよ。私と違って頭よかったし、器用だし」


「いや、そんなことないよ。そんなことないって……」

 


「……」

 


「……」

 


10分くらい話をして、また沈黙がうまれました。私は生唾を飲み、ずっと出掛かっていた言葉を口に出しました。


「なあ、奈津美、久し振りに、会えないかな」

 

「え?」

 

「あ、ごめん、なんというか、唐突だよな、ちょっとだけでも。ダメ?」

 

「え、えっと」

 

「そんな、へんな話はしないよ。会って、少しだけでも、会って、話がしたいだけ」

 

「え……いや……」

 

この反応で、私はとっさに気付きました。もっと早く気付くべきだったのですが、勝手に高揚していて、なにもみえなくなっていたのです。

 

「あ……ごめん。そっか、彼氏がいるんだ?」

 

「うん」

 

「は、ハハッ、そうだよな、そうだよな、ごめん。ごめん……」

 

「うん……」

 

「いま彼の家だったりして?」

 

「うん」

 

「あ、そっかそっか! はは、そっか、えと、あれかな、学校の繋がりとかで?」

 

「うん」

 

「そっか、そっか! そっか、そっか。彼氏、優しいひと?」

 

「うん」

 

「はは、なんだ、幸せにやってるんなら、俺も嬉しいよ。よかった。」

 

「うん」

 

「あ、あのさ……あの……さ……どうしても奈津美に言いたいことがあって」

 

「え?」

 

「いや、俺、奈津美に突然別れるって言ったじゃん、あれさ、あれ、俺、ほかに好きな人ができたって言ったけど、あれ、嘘だったんだ。嘘だった。……はは、いまさらなに言ってるんだろうな、俺、」

 

「……」

 

「俺、ちょっとさ、なんというか、あのときちょっとおかしくなっててさ。だから、それがずっと言えなくて、どうしても、それだけが心残りで」

 

「……いいよ、もう、」

 

「そうだよな、そうだよな。はは! そうだよな。ごめんな。ごめん。ごめんってのもなんか変なのかな、ああ、でもさ、俺、奈津美が幸せそうで本当よかった。それがわかっただけでも嬉しいよ。」

 

「うん……」

 

「ごめんな、ごめん、勝手に電話なんかして。本当、勝手だよな。もう二度と電話しないから、二度と……」

 


「うん……」

 


電話を切った途端、私は子供のように大声で泣きました。


ガタガタと歯が震え、涙と、鼻水と、しゃっくりが出て、1時間経っても泣き止みませんでした。


パチスロをしてから、どんな金銭的な危機があっても、どんな惨めなことがあっても、どんなに大切なものを失っても、泣くことはありませんでした。でも、私はこのとき初めて泣きました。


4年間、自分はなにをしていただろう? 大学生活には絶望していたけど、期待していた環境にはいられなかったけど、それでも友達はいた。小中時代、高校時代、大学のクラスメイトやサークル、バイト。


本当に、なにも残らなかった。


カネは、失っても、死ぬ気でやればなんとかなることを私は痛いほどわかっています。
しかし、失ったひとはそう簡単には戻ってきません。


いま思えば、なにが不満だったのだろう?


みんな、描いた理想にはなれなくて、だから現状を受け入れて、その現状のなかでいかに楽しんでいけるかを考えるのに。それは決して妥協ではなく、新しい環境で、自分のあるべき姿を探さなければいけないのに。


私はずっと逃げ続けていたのです……