ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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逃走。

その日、自宅に帰ってすぐ着替え、パチスロをしました。何回か行ったことのある、地元から8つ離れた駅にある、パチンコ屋でした。


「もう絶対就職なんてしたくない、就職なんてするもんか…」


雑念がはいると、また惨めな自分を思い出してしまうので、パチスロに集中しました。


「今日は帰り遅いの?」


母親からメールが来ましたが、3時間後、「連絡遅れてごめん。急にゼミの友達と飲むことになっちゃって、帰り友達の家に泊まるかも!」と返信しておきました。


家に、帰りたくありませんでした。


**

-24,000円。


現金残高132円。


「あ、帰りの電車賃まで使ってしまった…」


借金は限度額一杯なので、歩いて帰るしかありません。


高架下から長く道が続いています。とりあえず、この道を歩けば地元に着くだろうと思いました。空にはあまり雲がなかったものの、風上の方角で雨が降っているのか、コンクリートが蒸発した甘い匂いがしました。


視界の先で、信号や街灯やコンビニや飲食店のネオンがぼんやりと浮かんでいましたが、パチンコ店内の光量よりだいぶ弱く、ほとんど風景に溶け込んでいました。


「……それはあなたが考えたの?」


「来てくれた高校生は何か言ってた?」


面接官の言葉を思い出します。絶対、私のことを馬鹿にしていんだ、と思うと、怒りがこみ上げてきました。


途中、スイートブールを買いました。パチスロをしているときはまったく空腹感はありませんでしたが、終わって1時間くらいするとかなり腹が減りましたので、夜間営業をしている駅前スーパーで買いました。


残額は27円になりました。


**

高架下でホームレスが寝ています。
薄紫色のズボンはところどころが破け、ほどけた白い繊維が風に揺れています。真っ黒の髪は皮脂でまとまり、皺だらけの顔は褐色で、皮膚が異様に厚みを持っていました。


私は片手でスイートブールを食べ、ホームレスのすぐ側を通りました。口に運ぶたびに包装がシャカシャカ鳴るので起こしてしまいそうで心配でしたが、ホームレスはずっと寝ていました。


自動販売機の灯りを求めて羽虫がたかり、ディスプレイのなかには閉じ込められた虫が何十匹も死んでいます。蜘蛛がそこに巣をつくっていましたが、巣は破け、埃まみれになっていました。


遠くでは、また別のホームレスが、リアカーに積まれた大量の空き缶を整理しています。何キロ集めてそれがいくらになるのかわかりませんが、私よりはきっと彼らのほうが現金を持っている、なんとなくそう思いました。


自分も将来こうなるのかな、この人はどういうきっかけでこのような生活をすることになったのかな、この人は小さい頃、親から愛されていたのかな、人生で一度は成功と思える経験をしたことがあるのかな、とか、いろいろなことを思いました。


自分がホームレスになっても、それはそれで構わないと思いました。


高架下から続く道は途中で雑木林にかわり、いったんそこで行き止まりでした。
住宅街にはいると、駐車場を備えた一軒家が立ち並びます。


一軒家は、どこもひと気があまりありませんでした。