間一髪、窮地を脱する。
間一髪、窮地を脱する。
食事を終えた母親は、皿を片付け、水洗いをしようとしていましたが、私はすかさず「あ、いいよ、やるよやるよ」と遮りました。
はやくいけ、はやく洗濯物を取りにいけ…
「じゃあ洗濯物取り込んでくるわね」
私は階段下に張りつき、母親が3階まで上がりきったことを確認しました。
洗濯物を取り込み、たたみ終わるまでだいたい10分ほどの猶予……
電話線をコネクタから完全に外すとだらんと垂れさがり、あからさまにわかってしまうので、電話機のそばにあったメモ帳を一枚破り、コネクタを包めるサイズに加工しました。電気を遮断すればいい。そう考え、二重に紙を被せたあと、慎重に戻し、簡単に抜けないかどうかを確認しました。
「はは……ハハハ、ざまあみろ!完璧だ!」
とても自然にでき、とっさの考えにしては上出来で、私は勝利を確信しました。
残りの時間で皿を雑に洗い、食洗機に放りました。
「今日は鹿島は勝ったかねぇ」
気持ちに余裕がでてきて、母親のご機嫌を得るためのトークに花を咲かせます。
「誰からも電話がかかってこない。」
ただそれだけのことが、これほど幸せを得られるものなんて。
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翌日、午前中にバイト先から日銭を貰い、速攻で振り込みました。
「すいません、なんかちょっとやっぱり口座が違ってたらしくて、確認できましたか?」
カード会社には余裕をかましてこちらから連絡をしました。
これで借入可能金額はまたリセット。無借金。クリーン。 しばしの心の安泰。
家に戻り、リビングのソファに寝そべりニュースをつけると、昨日の空き巣事件が映っていました。
「O県I市で連続して起きた空き巣事件ですが、犯人とみられる男が、逮捕されました」
女性アナウンサーは、昨日と同じように一言ひとことを慎重に読み上げていました。
「昨夜、他県のATMで、盗んだカードから現金をおろした姿が防犯カメラに映り、その映像が犯人逮捕の決め手になったということです」