ギャンブル依存症患者が綴るノンフィクション。

自戒の念を込めつつ、15年間に渡る「ギャンブル依存症」の悲惨な経験を赤裸々に綴ります。こんなダメ人間にはならないで下さい。毎日更新しています。

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150万の借金と吉川さん。

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150万の借金と吉川さん。

「吉川さん、もう一回」


吉川さんの地元駅で私は、久々の格闘ゲームに興じていました。


ストリートファイター2、ストリートファイター3。主にこのゲームが好きでした)


吉川さんは100円2枚のメダルを交換し、台の上に6枚積んでいましたが、私はまったく勝てないので吉川さんのメダルは減りません。

 


「吉川さん、強いっすね、相当やり込んだんですか?」


「いやあ、俺なんてまだまだだよ。あそこにいる奴なんて、めちゃくちゃ上手いよ。勝てたことない。多分大会とかに出ても相当うえにいくんじゃないかな」


そう言いながら指さした先には、吉川さん以上に年齢不詳な少年のような男がいました。長髪ストレートの髪型に、デニムに白いTシャツとグレーのジャケット。

整った眉ときめ細かい肌質、落ち着いた佇まいはどこか、金持ちを感じさせました。月曜日と水曜日はほぼ毎日、たまに土日に出没し、吉川さん曰く「わりと話したことのある」関係とのことでした。


「どうも、」


男は吉川さんと目が合った途端、柔らかい笑顔をしてこちらに来て、挨拶をしました。


「森田君と言います、バイトで知り合ったんだ」


吉川さんは椅子に座ったまま、私を紹介しました。


「対戦してみる?」


「いや、いいっす。絶対勝てないですもん。吉川さんのやってるのを見ますよ。吉川さんお願いします」


私は苦笑してそう促しました。

2人の対戦は、将棋や囲碁のように緻密に先を読む力と、格闘技のようなスリリングな展開、それにゲームならではのスピード感も加わり、私もとてもエキサイトしながら観戦していました。


**

「またやりましょうね」

「おお、また」

20時を過ぎたあたりで、私は帰ろうとしました。

昼からかれこれ6時間近くモニターと睨めっこをしていたので、長時間パチスロをしたときと同じように後頭部がズキズキ痛み、強烈な眠気に襲われていました。


「軽く飯でも食ってかない?」


地下へと続くゲームセンターの階段を背にして吉川さんは言います。


「あ…い、いや、あ……そしたら、あそことかで、軽いものぐらいでしたら……」


私は例によって所持金が千円を切っていましたので、百メートル先からも看板がこうこうと輝く中華料理のチェーンを指差しました。


私たちは店の一番隅に陣取り、私はその店で一番安いラーメンを注文し、吉川さんも同じものを注文しました。


「上手いですね、本当」


後頭部の痺れが続き、身体がふわふわした感覚を持ちながら私は聞きました。


「いやあ、俺なんか2年前からやりはじめたぐらいだし、そんなことないと思うけどな」


「2年前ですか」


「さっき紹介した奴いるじゃん、カケガワ君っていうんだけどさ、彼なんて10年近くやってるって聞いたけどね」


「そんなですか?」


私が目を丸くして言うと、吉川さんは「そんなもんなんじゃないの」とばかりにあっけらかんとしていました。


「ジュウニバンサン」


明らかに日本ではない国籍の女性が「ラメンフタツオマチヨ」と威勢よく言葉を発し、私たちのテーブルに二杯のラーメンを置きました。吉川さんはすかさず胡椒を3回振りかけます。割り箸は四角い容器に隙間なく刺さっていました。


「森田君さあ、なんか他においしいバイト知らない?」


「あったら僕が紹介して欲しいくらいですよ。吉川さんはこのバイト、いつからやってるんですか」


「3年前くらいからかな」


「かなり続けてるじゃないですか。あまり好きじゃないんですか、いまのバイト」


「いや、まあ、楽だし、わりとひとりでやれるのが多いからね、まあまあかな」


あのマンションの看板持ちの仕事なんか特にそうですよね、と私は笑いながら答えます。


油をまとった麺は、口に運んだ途端にボロボロと千切れ、チャーシューは噛んだ途端に糸のような繊維が出て歯間に詰まります。
吉川さんはズルズルと麺を啜りながら、左手につけた腕時計を外しました。全体がホワイトの腕時計は光沢があり、プラモデルのような外観でした。


「その前はうどん屋でひたすら天ぷらを揚げてたよ」


「なんですかそれは、」


私たちは時折箸を止め、お互いのバイト遍歴について語り合いました。

コンビニ弁当工場の夜勤は8時間メンタルを保つのが難しいとか、住宅展示場で行われるイベントの仕事は穴場だとか、そんな話でした。


吉川さんのうつわに麺が見えなくなり、レンゲでスープを啜りはじめました。


「そういえば、すいません、前に吉川さんが言ってた話なんですが……」


私は吉川さんの顔色を伺いながらあの話をまた聞こうとしました。理由はわかりません。仲良くなったわけでもないのに、失礼なのかも知れません。しかし、どうしても、聞かなければいけない、と思ったのです。


「パチンコにハマって借金してバレたって話、あの話、すいません、また聞いてしまうんですけど、親に隠したりしたんですか?」


どういうスタンスで聞いていいのかわからず、声のトーンを落とし、少し冗談めかして、曖昧に聞きました。


「んー」


「まあさ、150万円借金しちゃったからね。そりゃ言えないよね」


「そんなにですか。それ、全部パチンコで、ですか?」


「パチンコはそんなに負けてなかったかな。あと、麻雀とか競馬とかもやってたから。最初はわりと勝ってたけどね、それこそ月に10何万円も。他にもいろいろ手を出してからが運の尽きというか」


「それで、ですか……いや、すいません、額が凄いんでビックリしましたよ」


「一気にドカンと増えたかな、正直あまり自覚がなかった」


どんなリアクションをして話をしたらいいのかわからず、無理やり笑顔をつくる私に、吉川さんも半笑いで答えます。


「まあ、殴られたわ。オヤジに。明細を勝手に開けられちゃってさ。うまくやってたつもりだったんだけどね。でも俺もちょっと限界だったというか。稼ぎっても学生なんでたかが知れてるでしょ」


「そ、そう、ですね」


「なんのためにお前を大学行かせたんだって言われてさ、いや、本当そのとおりなんだけどね。謝ったけど、ダメだった。家を追い出された」


「は、はは、凄いですね、あの、借金は、いまは返したんですか」


「全部お前が返せってことで、結局大学も辞めて、3年がかりで返済したよ。きつかった」